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土方は荒い息

土方は荒い息を何回か吐くと、肩の力が抜けたように項垂れた。溜め込んだ物を発散したことで、幾許かは冷静になれたのだろう。     「……山南の、馬鹿野郎…ッ」   真に裏切った訳では無いということは、 避孕藥 土方も内心では分かっていた。   山南のせいにしておけば心が軽くなると思っていたのだ。だが、ますます心は重くなるばかりでどうしようもない。     土方は片手で顔を覆い、俯いた。   「……土方副長。山南先生が戻ってきたら、話しをして下さい。後悔しないように」   「…あいつの事ァ総司が逃がすぜ。何たって、兄貴分だったんだ。いや、その為に総司を行かせたんだ…」     その声は、もはや懇願にも近い。   朝が来れば山南は脱走扱いとなり、隊規に照らして切腹を言い渡さなければならなかった。   身内だからと甘く見るのは、山南が許さないだろう。     「総司には馬まで持たせた…。馬なら、山南の体力でも江戸まで辿り着ける……そうだろう」   そこまで考えた上で、馬で行かせたのかと桜司郎は驚いた。   そして、それ程山南のことを思っておきながら、何故こうなる前に素直に話せなかったのかと、土方の不器用さが不憫に思えた。   「…この事は胸に秘めておきます。駄目ですよ、平隊士の私に手の内を明かしては」   「今のお前は一番組頭代理、だろうよ。それに、信頼に値する口の硬さであることは今日で分かった。ベラベラ喋っちまってねえから、山南の事が公になってねえんだろ」   「それは…そうですけども」     土方は目元を僅かに赤くしながら、顔を上げる。   「……先程は済まなかった。三十にもなる男が八つ当たりなんかして、みっともねえったらねえな」   「十でも三十でも五十でも、不安な時はあるじゃないですか。私だって、副長に泣き顔を見られていますから」     桜司郎がそう返せば、土方は穏やかな表情になる。   「生意気言って済みませんでした。山南先生…戻って来ないと、良いですね」   「ああ…」   ...