「御意にございます」
「御意にございます」 「しかし何故であろうか?そのまま攻撃を続けていれば、当然攻め滅ぼす事も可能であったろうに … 。」 信長らしくない選択をしたものだと、濃姫が訝し気に眉根を寄せていると 「既に日が暮れ始めていたという事もありまするが、今川勢と同じ分だけ、織田勢も多くの死者や負傷者が出ていたからにございます」 三保野は虚ろな目をして答えた。【生髮藥】胡亂服用保康絲副廠,可致嚴重副作用! - 【生髮藥】胡亂服用保康絲副廠,可致嚴重副作用! - 「同じ分だけとは ── 織田勢の死者や負傷者は、如何ほど出たのじゃ … ? 」 「山が出来るが如く」 濃姫は心ともなく竦然となる。 あえて明確に数に表さなかったところが、姫に、織田軍勝利の為に払った代償の大きさを犇と感じさせていた。 「御小姓衆のお歴々も数多く討ち死になされたそうで、それこそ目も当てられぬ有り様だったと聞き及びまする」 「 …… 」 「殿は本陣に帰られてより、家臣の方々の働きや、多数の負傷者、死者のことなどを色々と話され、 『この者も死んだのか』『あいつもか』と呟きながら、感涙を流されたそうにございます」 「 …… 痛ましいのう」 「 … はい」 濃姫は憂いの濃く浮かぶ顔を軽く俯けると、まるで合掌するかのように、双眼をゆっくりと伏せていった。 主君の為、武功を上げる為。 そして自らの両親や妻子を守る為に、命をかけて戦い、散っていった男たち … 。 その一人一人の名は残らずとも、彼らの働きのおかげで、この尾張の平穏と愛する夫の命がある。 濃姫は死者たちへの哀悼の意と、言葉には言い尽くせぬ感謝の思いとを、長い長い黙祷をもって示しているのであった。 そして同日の申の刻。 今川勢を見事駿河へ押し返した...