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「御意にございます」

  「御意にございます」   「しかし何故であろうか?そのまま攻撃を続けていれば、当然攻め滅ぼす事も可能であったろうに … 。」   信長らしくない選択をしたものだと、濃姫が訝し気に眉根を寄せていると   「既に日が暮れ始めていたという事もありまするが、今川勢と同じ分だけ、織田勢も多くの死者や負傷者が出ていたからにございます」   三保野は虚ろな目をして答えた。【生髮藥】胡亂服用保康絲副廠,可致嚴重副作用! - 【生髮藥】胡亂服用保康絲副廠,可致嚴重副作用! -   「同じ分だけとは ── 織田勢の死者や負傷者は、如何ほど出たのじゃ … ? 」   「山が出来るが如く」   濃姫は心ともなく竦然となる。   あえて明確に数に表さなかったところが、姫に、織田軍勝利の為に払った代償の大きさを犇と感じさせていた。   「御小姓衆のお歴々も数多く討ち死になされたそうで、それこそ目も当てられぬ有り様だったと聞き及びまする」   「 …… 」   「殿は本陣に帰られてより、家臣の方々の働きや、多数の負傷者、死者のことなどを色々と話され、   『この者も死んだのか』『あいつもか』と呟きながら、感涙を流されたそうにございます」   「 …… 痛ましいのう」   「 … はい」   濃姫は憂いの濃く浮かぶ顔を軽く俯けると、まるで合掌するかのように、双眼をゆっくりと伏せていった。 主君の為、武功を上げる為。   そして自らの両親や妻子を守る為に、命をかけて戦い、散っていった男たち … 。   その一人一人の名は残らずとも、彼らの働きのおかげで、この尾張の平穏と愛する夫の命がある。   濃姫は死者たちへの哀悼の意と、言葉には言い尽くせぬ感謝の思いとを、長い長い黙祷をもって示しているのであった。           そして同日の申の刻。   今川勢を見事駿河へ押し返した...

そんな夫を、濃姫も暫らく黙視していたが

そんな夫を、濃姫も暫らく黙視していたが   「 …… 承知致しました。ではまた、殿のご機嫌がよろしい時にお伺いすることに致しましょう」   と、今宵のところは素直に引き下がることにした。   諦めもあったが、信長の気持ちを忖度するよう三保野を窘めた自分が、執拗に問い質すのも可笑しかろう。   濃姫は頭を垂れると、すくと立ち上がって、打掛の裾を翻した。 https://www.easycorp.com.hk/blog/%e7%94%9a%e9%ba%bc%e6%98%af%e5%85%ac%e5%8f%b8%e8%a8%bb%e5%86%8a%e8%ad%89%e6%98%8e%e6%9b%b8-ci%ef%bc%9f%e4%bc%81%e6%a5%ad%e7%9a%84%e6%b3%95%e5%be%8b%e8%ba%ab%e4%bb%bd%e8%ad%89/     「 …… 勝介が申していた通り、見事な死に様であった」     細く凛とした声が、室内の冷たい空気を震わせた。   濃姫は肩を竦めるようにして小さく振り返る。   信長は先程と同じ体勢のままであったが、目だけは確りと見開いていた。     「爺は空の部屋の中 … 白い死装束の姿で、割腹しておったわ」   「 ─!? 」   「血に染まった両の手を、腹に突き刺した刀に添えたまま、まるで赤子のように手足を縮め … 横倒れしておった。   己の血で畳が汚れるのを気にしてか、奴 ( きゃつ ) め、足下にわざわざ濃色の敷物まで用意しておってのう。   最後の最後まで、几帳面な爺らしいと思ったわ … ははは」   濃姫が今まで聞いてきた中で、それは最も悲しい笑い声だった。 「五郎右衛門ら、政秀の愚息共は “ 狂死じゃ ”“ 気患いが高じての自刃じゃ ” などと申しておったが、   あの確り者の爺が気患いなど有り得ぬ。それほどに精神の弱い奴ならば、この儂に二十年もの長の年月 ( としつき ) 仕える事など出来まい」   信長の言葉を聞きながら、濃姫も「確かに」と頷き、再びその場に膝を折った。   「まことに狂死ならば、...