喜平次は全てを悟ったのか
喜平次は全てを悟ったのか、思わず茫然となって、深く首肯する道三の顔を力なく見つめた。 『忘れてはならぬ。義龍は間違いなくそちたちの兄じゃ』 『 …… 』 『そして、この斎藤道三が己の後継者と認める唯一の息子じゃ』 ───… 【生髮藥】胡亂服用保康絲副廠,可致嚴重副作用! - 三保野はそこまで読んでようやく、安堵にも似た暖かな微笑を漏らすに至った。 濃姫も長年の胸のつかえが下りたような爽快さで、三保野から再び文を預かると 「父上様は名うての策士じゃ。例え馬鹿馬鹿しき噂であろうとも、利用出来ると思えば徹底して利用するお方です。 兄上をあえて土岐氏の御子とする事で、土岐氏寄りの家臣たちや、父上様に怨みを抱いている者たちの手から、兄上を守ろうと致したのやも知れぬな」 「例えご自分が、実の父ではないと … そう思われてもですか?」 三保野が静かに伺うと、濃姫は朗らかに微笑 ( わら ) った。 「親というものはすべからく、我が子の為ならば己の誇りも、命すらも投げ出せるものと聞きまする。 ましてや “ 蝮の道三 ” と恐れられた肝の太き父上様のこと、実父か否かの問題くらいで心を痛めたりはなさるまい」 「 …… お気付きになられるでしょうか?」 「何がじゃ」 「そこまでなされる大殿様のお気持ちに、果たして義龍様は、気付く事が出来ますでしょうか?」 その懸念は濃姫も同様だったのか、明確な答えは返さず「そうよのう」と相槌を打つように呟いた。 「あまりにも遠回しな意思表示は、思わぬ争いを生みそうで、何やら恐ろしゅうございます」 やや青白ろんだ顔を深刻そうに歪めながら、三保野は悪い予感を振り払うように、小さくかぶりを振った。 「そなたの不安は分かるが、尾張にいる我らが左様な事を心配しても致し方なかろう」 「 … 姫様」 「今はただ、兄上を信じるしかあ...