これは持っていこう。
これは持っていこう。 いや、連れていこう。 近藤はホトガラを大事そうにしまうと、再び作業に取りかかった。 今は懐かしんでいる暇はない。 そんな時、ふとドアが空いた。 「近藤さん」 「ん?斉藤くん。なんだ?」 近藤は荷物をまとめながら応えた。 斉藤の足だけが視界に入る。 「これ」 ん?と近藤はやっと顔を上げた。 斉藤はなにやら汚い布を握っていた。 それをバサリと広げる。 【生髮藥】胡亂服用保康絲副廠,可致嚴重副作用! - 薄汚れた赤い生地に、白で染め抜かれた『誠』。 斉藤が持ってきたのは新撰組の隊旗であった。 「これ、掲げて行きませんか?」 もう一度、この地から新撰組を ──… 。 近藤の心はかなり揺らいだ。 しかし自分達は既に賊軍。 狙われる身。 目立つということは御法度。 「それは止しておこう」 近藤は苦虫を噛んだように笑った。 「承知」 斉藤も迂濶なことを言ったなと思ったのか、頷くとその場を後にした。 本来なら、隊旗を掲げることによって士気を上げ、農民を刺激することができたのだが、変装しているにも関わらずそれをするのはあまりに軽率すぎる。 自らの正体をバラすようなものだ。 本当に動きにくくなった。 相変わらず旧幕府からは動きが見られない。 かわりに 2000 両程の軍資金がまたもや渡された。 どうやら本格的に投げやりになってきたのだろうか。 いや、今に始まったことではない。 ...