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Showing posts from December, 2023

「皆さんもお気をつけて!」

  「皆さんもお気をつけて!」     握られた手をそのままに後ろの隊士たちにも笑顔を振りまいた。     「怪我したら手当てを頼むぜ。完治するまで手厚くな。 ほらさっさと行かねぇとここで斬られちまう。」       永倉はにやにや笑いながら三津の頭を撫で回し,巡察に向かった。     『原田さんも永倉さんも賑やかで面白い人やなぁ。 流石に屯所の前では敵も斬りかかって来んと思うけど。』     一体誰に斬られるんだか。 ふふっと笑い目を細めて一行を見送った。     「 … 原田さんは斬っても死なないし,永倉さんは怪我しても気付かないですよ。」     ぼそりと呟く声がしたと思えば不貞腐れた総司が横に立っていた。     「びっくりした!」     総司はむすっと腕を組み次第に小さくなって行く隊士の列を見つめていた。     『芹沢さんが三津さんに会いたがってるってだけでも気が気じゃないのに。あの二人ときたら … 。』     「沖田さん怒ってる?」     何だか冷たい空気が漂ってる気がして腕をさすりながら総司を見上げた。     「当たり前じゃないですか!全く油断も隙もない!」     声を荒げてからはっと口を押さえた。 ゆっくり視線を斜め下に向けると三津が豆鉄砲を食ったような目で自分を見ていた。     「あの … ほら!あんな軽々しく手を握るような人に笑顔を向けちゃ駄目です。何をされるか分かりませんから!」     焦った総司はぽかんとする三津を前に必死に取り繕う。総司は急に怒鳴ったのを謝らねばとあたふたしていると,三津は目元を綻ばした。     「沖田さんて私のお父さん?」 ...

「薄着で外へ出るな

  「薄着で外へ出るな。日が長くなったとは言え、まだまだ冷える」   「山口先生 …… 」      相変わらずの仏頂面だったが、言動には温もりが宿っていた。     「あんたはいつまで俺のことを先生と呼ぶ?階級で言えば同等だろうに。歳も近いのだから、先生呼びは止めてくれ。 http://jeffrey948.eklablog.com/-a215110913   https://avisterry.futbolowo.pl/news/article/news-24    https://www.beclass.com/rid=284b42b6576f6f4c9e1d    …… 俺よりも歳上の山野のことは下の名前で呼んでいるでは無いか」      突然のその言葉に驚いたが、彼なりに親しみを表しているのだろう。言動で云えば、圧倒的に山口の方が大人びているのだが。     「 …… では、山口さん?」   「 ………… まあ、良い」      何処か不服そうではあったが、納得したように小さく何回か頷いていた。    山口は桜司郎の隣へ立つと、空を見上げる。その横顔を見詰めると、桜司郎は口を開いた。     「山口さん。今後私たちはどうなるのでしょうか」   「 …… そうだな。会津へ向かうか、体制を立て直してから同志を募って戦うか、 …… このまま解散か。どれかだろうな」      解散、の一言にドキリとする。もはや新撰組単体ではどうにもならないところまで来ている、そのことは重なる戦で痛感していた。「 …… 山口さんはどれが良いと思います?」   「俺か。俺は …… そうだな。会津へ行くのが良いと思う。薩長の連中は会津を赦しはしないだろう。会津も徹底抗戦をするだろうから、奴らと戦うのであればそこが確実だ。それに …… 」   「それに?」   「俺たちは会津公無くしては...

笑い声を上げながら、二人はじゃれ合う

   笑い声を上げながら、二人はじゃれ合う。それを微笑ましそうに桜司郎は眺めた。そこへバタバタと屯所の方から駆け寄る音が響く。   「桜司郎ーッ!」   「鈴木くーん!」    山野の低い声と馬越の少し高めの声が鼓膜を叩いた。桜司郎はそれを見るなり、腕を上げて大きく手を振る。     「八十八君、馬越君!」  easycorp    三人は再会を喜び、抱き合った。そこへドタドタと更に大きな地鳴りを轟かせながら松原がやってくる。   「鈴さん、よう戻ったのう!疲れたやろ、ん?」   「忠さん、ただいま!あの …… 沖田先生は?」    桜司郎の言葉に松原は寂しそうに唇を尖らせ、あからさまに落胆した。   「何や、ワシより沖田センセが気になるんかいな。此処におるで」    松原はそう言うと、自身の後ろを指さす。松原の影から穏やかな笑みを浮かべた沖田がひょっこりと顔を出した。     「沖田先生」   「よく無事に帰って来ましたね。 …… お帰りなさい」    沖田は一歩踏み出すと、桜司郎の頭を撫でる。約ぶりに見る彼女は何処か大人びて見え、その手が僅かに震えた。何かあったのだろうかと勘繰る。    紆余曲折あったが、沖田との約束を果たして戻ってこれたことが嬉しくて、桜司郎は気付いた頃には目から涙を零していた。  それに気付いた沖田は慌てながら、自身の着物の袖を手元に手繰り寄せると、それで桜司郎の目元を拭う。陽だまりのような沖田の匂いが、更に彼女を安心させた。   「鈴木桜司郎、ただいま沖田先生の元へ戻りました」      目元を赤く染め、嬉しそうにそう言う桜司郎を見ていると、沖田は勘繰っていたことがどうでも良くなる。無事に戻ってきた、それだけで良いと思ったのだ。 新人隊士の荷解きも " とりあえず " の部屋振りも終わり、土方が離れの幹部棟にある自室で一息ついた頃にはすっかり夜も更けていた。    重い息を吐...