笑い声を上げながら、二人はじゃれ合う
笑い声を上げながら、二人はじゃれ合う。それを微笑ましそうに桜司郎は眺めた。そこへバタバタと屯所の方から駆け寄る音が響く。
「桜司郎ーッ!」
「鈴木くーん!」
山野の低い声と馬越の少し高めの声が鼓膜を叩いた。桜司郎はそれを見るなり、腕を上げて大きく手を振る。
「八十八君、馬越君!」 easycorp
三人は再会を喜び、抱き合った。そこへドタドタと更に大きな地鳴りを轟かせながら松原がやってくる。
「鈴さん、よう戻ったのう!疲れたやろ、ん?」
「忠さん、ただいま!あの……沖田先生は?」
桜司郎の言葉に松原は寂しそうに唇を尖らせ、あからさまに落胆した。
「何や、ワシより沖田センセが気になるんかいな。此処におるで」
松原はそう言うと、自身の後ろを指さす。松原の影から穏やかな笑みを浮かべた沖田がひょっこりと顔を出した。
「沖田先生」
「よく無事に帰って来ましたね。……お帰りなさい」
沖田は一歩踏み出すと、桜司郎の頭を撫でる。約ぶりに見る彼女は何処か大人びて見え、その手が僅かに震えた。何かあったのだろうかと勘繰る。
紆余曲折あったが、沖田との約束を果たして戻ってこれたことが嬉しくて、桜司郎は気付いた頃には目から涙を零していた。
それに気付いた沖田は慌てながら、自身の着物の袖を手元に手繰り寄せると、それで桜司郎の目元を拭う。陽だまりのような沖田の匂いが、更に彼女を安心させた。
「鈴木桜司郎、ただいま沖田先生の元へ戻りました」
目元を赤く染め、嬉しそうにそう言う桜司郎を見ていると、沖田は勘繰っていたことがどうでも良くなる。無事に戻ってきた、それだけで良いと思ったのだ。 新人隊士の荷解きも"とりあえず"の部屋振りも終わり、土方が離れの幹部棟にある自室で一息ついた頃にはすっかり夜も更けていた。
重い息を吐き出すと、首と肩を回せば鈍い音が鳴る。そこへギシギシと短い音を立てて部屋の前に立つ人影がいた。
土方は口角を上げると、その影に入るように促す。スッと障子が音を立てて開いた。
「やっと落ち着いたな。歳、お帰り」
声を聞かずとも雰囲気だけで土方が察せる男、その来訪者は近藤である。いつもは鋭い眼が緩み、大きな口とニカッと笑うと出来る笑窪が独特の愛嬌を感じさせた。
「何だよ、改まって。おう、ただいま」
近藤は土方の横に座ると、手にしていた湯気の立つ湯呑みをその前に置く。
「局長手ずから、茶を入れてくれたのかい?贅沢だな」
笑みを深くすると、土方はそれを手に取り啜った。疲れた身体に茶の苦さが染み渡る。
「いやー、参ったよ。隊士が増えることを本願寺の門主殿に一言言わねばと思って報告したら、こんな時間になっちまった」
近藤も茶を啜ると、ふうと息を吐いた。それを聞いた土方は苦笑いを浮かべる。道理で疲れているような顔をしている筈だと。
「大方、嫌な顔をされた挙句に嫌味でもかまされたか?お前さんも律儀な男だよなァ、わざわざ言いに行くなんてよ」
「あっはは、そうはいくめぇよ。余計に嫌味を言われちまうだろう」
土方の的確な指摘に、近藤はからからと笑った。だが、この近藤には門主の嫌味などは通用しない。文句も言われ慣れている上に、謝罪もし慣れているのだ。
それが大将の仕事か?と土方は口に出そうとして止めた。これが近藤の良さなのである。嘘が無くて、吃驚するくらいに人が良くて性根が真っ直ぐな男だった。この人には絶対勝てない、と土方は横目で近藤を見ながら改めて思う。
そんな視線に気付いたのか、近藤は土方を見返すとニヤリと笑んだ。
「それより歳。お前さん、ここを発つ前よりずっと楽しそうな
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