何せ馬は泳げる
何せ馬は泳げる、騎乗したまま渡河することが出来るので警戒網に掛からない可能性を求めるならば孫堅の言うように、黄河を一旦渡り懐から西へ行けばよい。どこもかしこも見通しが悪い、斥候を出して進めばうっかり敵と遭遇は避けられる。「やってやれないことはないが、やはり兵が渇いた状態で動けるようにしたい。私は南を行くのを推すが」
皆がそれぞれの思うところを口にする、こうやって劉曹孫が同じ目標を追いかけて並ぶのは恐らくこれが最初で最後。部将らが主をじっと見つめている、どのように決まっても遺恨が無いようにしたい。
「北は徐栄軍団、南は胡軫軍団の守備範囲か。經痛 ところで、偵察だけで終わるつもりか?」
にやりとして島介は挑発的な物言いをした。孫堅はそれを耳にして嬉しそうな表情を浮かべ、曹操はほぅと目を細め、劉備は目を閉じる。
「聞くところによりますと、徐栄軍団は李粛と李蒙、胡軫軍団は華雄と張済、王方が所属しております。呂布は成睾を離れて後、行方が聞こえてきておりません」
敵の情報収集については荀彧ネットワークが一番詳しかったようで、主だった名前が全て上がる。
「胡軫とかいうのは洛陽に居るだろうな、徐栄はどこに居ると思う?」
曹操にしてみればどうにかして仕返しをしてやりたい相手だ、脳内の地図を素早く確かめ、本陣を置くと都合の良い場所にあたりをつける。
「温では近すぎる、沁水では奥へ行きすぎだ、河陽ならばどこへでも迎えるので丁度良いな」
皮の巻物を拡げて荀彧が場所を確認する、孫堅は土地勘が無いので助かると覗き込んだ。洛陽北に平津、河陽、沁水と並んでいた。河陽の東に温がある、その温のすぐ傍に在るのが温津だ。
「目の前で津をうろうろしている見知らぬ騎兵が居たら、徐栄はどうするかな」
「島殿、やはり南岸より北岸が良かろう。懐を含め後背地が広い、騎兵を運用するに有利だ」 前言を翻して曹操が北を推した。これで意見は一致する、孟津を偵察に行くという建前で徐栄を吊り出そうと言うのも共有した。
「では黄河を渡るとしよう。さてここでもう一つ役割がある、孟津を探りに実際に河に入る騎兵が百は必要だろう。囮が一番負担がかかる、出来るだけ強壮な者を選抜して任に充てたい」
即ち誰が一番強い部隊を用意出来るのかを聞いていた。数の上では間違いなく陳留黒兵だが、孫堅が名乗り出る。
「そこはまだ戦闘に参加しておらぬ某に任せて頂きたい、島殿如何」
目線で残りの二人に尋ねる。
「孫堅殿お一人に負担を強いるのは本意では御座いません。我が義弟の関羽、張飛をお連れ頂ければと」
「おう聞いたぞ、あの呂布と戦い負けず劣らずの激戦を繰り広げたとな! お預かりいたそう!」
関羽らの意見を確認せずに決めてしまう、とはいえ拒否などしないだろうが。
「ああっ、はっ、武名轟く孫堅殿の傍で学ぶべきがある。元譲、妙才、子孝ら我が腹心の部将を十人つけさせてもらう」
「それは心強うござる、お借り致そう!」
騎兵を動かすだけならば北瑠と島介が居れば充分、ならば自身もそうすべきだと名を上げる。
「ではこちらからは張遼、甘寧、典偉、趙厳、牽招を行かせよう」
「承知仕った。某の騎兵五百が囮を引き受けようぞ!」
文聘はと言うと、居残りの歩兵を統括する為に置いてきている。若いがしっかりとしていると、委細任せてしまっている。まだ二十三歳、多くの者の頂点に立つには早いが、下で取り仕切るならば充分。
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