濃姫と齋の局が嬉しそうに話していると
濃姫と齋の局が嬉しそうに話していると
「もない。──直に顔を見合わせるまでは分かるまい。武田の姫はやも知れぬ」
未だに二人の縁を快く思っていないのか、信長はからかうような口調で言った。
「そうとは限りませぬ。松姫殿の母君である油川殿は、信玄公からのご寵愛がお深く、
ご側室の中では最も多くの御子を成されたお方。よほど見目麗しきお方だったのでございましょう」
「はっ、どうだかな」
「それに、胡蝶の乳母であった殿の文によれば、岐阜の城では今、下々が口さなく噂しているそうにございますよ」
「噂?」
「 “ 殿のお世継ぎであるは、実は松姫様が産んだ御子なのではないか? ” と」
それを聞いて、信長は鼻で笑った。【平價植髮陷阱】看似吸引的植髮價錢 卻不能忽略的風險!
「馬鹿を申すな。三法師は側室である塩川氏のが産んだはずじゃ。
信忠とうたこともない松姫が、どうやって三法師の母になれるというのだ?」
「ですから、左様な噂が立つ程に、信忠殿の松姫殿への思い入れが強いという事でございます」
濃姫は語調を強めて言うと
「どうかそのような意地を張らず、姫君が織田家へ参りましたら、どうぞ温こうお迎え下さいますよう」
頭を垂れた、すくっとその場から立ち上がった。
「何じゃ、どこへ参る?」
「私も京へ随行するにあたり、色々とやらなければならぬ事があります故、これにて失礼致しまする」
「やらなければならぬ事とは何じゃ?」
すると濃姫は、返答を誤魔化すかのように一度にっこりと微笑むと
「ご無礼つかまつります」
軽く礼をし、齋の局を伴って座敷から出て行った。
話したいことだけを話して出て行った妻の背を、信長は半ば茫然として見送っているのだった。
座敷を去った濃姫は、再び奥御殿へ戻ると、その足で胡蝶の部屋へと向かった。
先ほど纏まった自身の上洛の旨を伝え、留守中の用心を徹底させる為だった。
「──良いですか、母がいないからといって、みだりに庭先に出て姿をしたり、
唄や鳴り物などに興じてはなりませぬよ。いつ、誰が見聞きしているのか分からないのですから」
「はい。母上様」
「それと、近頃は装束を仕立てることに時を費やし、勉学がかになっている様子。学問にもしっかりと励むよう」
「はい──承知致しましてございます」
居間の上座に腰を据える濃姫は、目前に控える胡蝶を見据えながら、厳しく申し渡した。
「母上様も、道中お気をつけて」
「有り難う」
「無事に戻って参られますよう、お祈り申し上げておりまする」
「………」
「なされました?」
「…いや、何でもない。そのような挨拶は、また出立の時にしておくれ」
「まぁ、そうでございますね」
愛らしくう胡蝶を、濃姫は複雑な表情で見つめた。
無事に、この子のもとへ戻って来られると良いが…。
そう思いながら、ふと胡蝶の目元を見ていた時だった。
『 …この子は…。ああ、そうであった── 』
何かくものがあったのか、濃姫は帯の間にを引き抜くと、
それを少しだけ広げた状態にして、胡蝶の口元にあてがってみた。
「…母上様、急に何をっ」
胡蝶は戸惑ったが、真剣な表情の母親を前に、それ以上は何も言えなかった。
濃姫は正面、右側、左側と、愛娘の口から上を丹念に眺めると、
ややあってから “ やはり ” という顔をして、静かに頷いた。
「ずっと探していた答えが、ようやっと、見つかったような気が致します」
濃姫はどこか自信ありげに呟くと、扇を閉じて再び帯の間に挿し、そのままスッと立ち上がった。
「母上様?」
「話しはこれまでじゃ。母は出立の仕度があります故──これにて」
信長の時と同じように、濃姫は齋の局を連れて、風のように胡蝶の部屋から去っていった。
いつにない母の落ち着きのなさに、胡蝶は困惑気味に眉をひそめるのだった。
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