サヤは斎藤と二人で総司を宥めつつ

サヤは斎藤と二人で総司を宥めつつ,初めて見る鬼に釘付けだった。

側にいる三津は怯える様子も取り乱す様子もなく至って普通だった。

 

 

『和解しはったんかしら。』

 

 

そう思って眺めていると鬼と三津が言い合いを始めた。喧嘩ではなくじゃれ合いのような。

その光景に三津の壬生での暮らしを垣間見た気がした。そして今尚暖かく迎えられている。

 

 

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そう思った時にはサヤはすでに斎藤よりも前に出ていた。「皆さんがお三津ちゃんを慕ってるのはよぉーく分かりましたけど,そろそろ帰してもらっていいですかね?」

 

 

そろそろお暇しなければ流石に帰りが遅いと思われる。

 

 

『多分誰かしらは気付いてるかも知らへんけど。下手したらその辺来てそう。』

 

 

果たしてここに来る前の斎藤の言葉通り帰してくれるのか。

 

 

「そうだね長々とすまなかった。お三津ちゃん最後に,追い回す真似はしないからご主人と女将に

顔を見せに行ってあげるといい。全く会っていないんだろ?」

 

 

『あらホンマに帰してくれるんや。それに慈悲深い言葉。それにしてもこっちの鬼は愛想も無いのね。』

 

 

鬼に愛想もへったくれもないかと納得させて目の前の光景を目に焼き付ける。

 

 

旦那様と呼ぶのを一度も嫌がらず一度も訂正する事のなかった斎藤。

自分で自分の首を絞めて恋を拗らせている総司。

何を考えてるか全く読めない鬼。

 

 

『桂様が三津さんに行き過ぎぐらいな対応しはるの分かるわ……。』

 

 

それを率いる大将は出来た人間のようだ。しかし三津と近藤のやり取りを聞いていると三津も三津なりにけじめとして距離感は保とうとしているようだ。

それならば一刻も早く連れて帰らねば。馴れ合いが過ぎると何かあった時の傷は深くなる。

 

 

「そろそろ行きましょうか。」

 

 

流石に今回は怒られる気がする。怒るというより厳重注意で済むとは思うが。

 

 

三津が深々と頭を下げると総司が哀愁たっぷりに名残惜しそうな顔をする。それが子犬のようで可愛く見えた。

 

 

『拗らせてなければすぐにお嫁さん来はるやろうに……。』

 

 

斎藤を見ればじっと念を送るように三津を見ている。

 

 

『もしも……があるならきっと旦那様がホンマの旦那様にピッタリかも知れへん。』

 

 

この短時間でこれだけ二人の間に特別なモノを感じた。しかし今の幸せを壊されては困る。主の仕事へのやる気がだだ下がりだ。そうなれば色々面倒なのだ。

 

 

三津の肩を抱いて家を出た。誰も見送りには出て来なかった。未練がましくならない為か,謀って現れた鬼を問い詰める為かは分からない。それでも追って来ないのならそれで良かった。

 

 

『それにしても……。』

 

 

「とんでもない寄り道になりましたねぇ。」

 

 

まさか彼女が壬生狼の身内だったとは予想外だったが,今思えば三津がお礼を渋っていたのはそのせいだったのかと思った。

 

 

三津は巻き込んでしまったと謝るが寧ろ巻き込んでくれてありがとうと言いたい。「いいえ?お陰で面白いもんが見られたし聞けたんで。」

 

 

含みのある言い方で笑ってみせると三津は不思議そうに目を丸くした。

 

 

「面白い?え?何がですか?」

 

 

そりゃ壬生狼が三津の事で張り合う姿を曝け出してくれたんだ。普通に考えて見られるもんじゃない。

 

 

「ふふ。」

 

 

思い出して思わず声が溢れた。

 

 

「え?ふふって何?え?何で早足になるんです?サヤさん!?」

 

 

ひとまず早く帰らなければいけないし,なるべく壬生狼からは遠ざかりたくて早足で歩いた。

 

 

『あれからずっと三津さんからの質問をはぐらかしてきたけどそのまんま伝えたら気持ちの変化は起きるんやろか。』

 

 

もし自分が余計なことを言って桂との中に変な歪みが生まれないか少しだけ不安だった。

 

 

あの日の事を振り返ってから三津を見ると,聞きたくてうずうずしながらサヤの口が開くのを待っていた。

 

 

「私からすれば関わる事のないと思っていた方々なんで新鮮で面白かったって意味で。ただお二人とも人柄は良い方々やったなと。」

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