「あのね,小五郎さん

 「あのね,小五郎さん。九一さんあんな風に言いますけどほとんど冗談ですからね?」

 

 

「隙あらば抱くは本音だろ。」

 

 

「だとしても軽々しく手を出して来ないのが九一さんです。京で小五郎さんの帰りを待ってる間,ずっと守ってくれてました。身を持って実感して信頼してます。」

 

 

その信頼でさえ,https://www.easycorp.com.hk/blog/%e7%94%9a%e9%ba%bc%e6%98%af%e5%85%ac%e5%8f%b8%e8%a8%bb%e5%86%8a%e8%ad%89%e6%98%8e%e6%9b%b8-ci%ef%bc%9f%e4%bc%81%e6%a5%ad%e7%9a%84%e6%b3%95%e5%be%8b%e8%ba%ab%e4%bb%bd%e8%ad%89/ 桂には嫉妬に値する。自分より堅い絆で結ばれた二人に嫉妬する。

腑に落ちないと顔に書いてるのを見て,三津は困ったなと眉尻を下げた。

 

 

「夫に通じる冗談やないですね。ごめんなさい。でもあれが九一さんの誠意なんです。」

 

 

「九一の誠意?どう言う事だ?」

 

 

「それは追々話します。今日はもう休みませんか?高杉さんの件で私もまだ心が落ち着いてないので……。」

 

 

愛しい妻に弱々しく微笑まれてはこれ以上の追求は出来ない。

三津もまた,高杉の病状を目の当たりにして心を傷めてるんだ。桂は小さく,そうだなとだけ呟いて大人しく布団に入った。

 

 

「明日の朝一で晋作の所へ行く。」

 

 

「はい,私もご一緒します。」

 

 

忙しい桂だ。朝一しか時間が取れないのだろう。それでも話を聞いた翌日すぐに行くと言うのは,それだけ大きな事なのだと三津は改めて思い知った。

 

 

……眠れるかい?」

 

 

「大丈夫です。小五郎さんは?お疲れでしょ?早く休みましょ。」

 

 

相変わらず人の事ばかり気にするなぁと桂は笑った。

 

 

「優しすぎるのが心配だよ……。」

 

 

桂は一言呟いて瞼を下ろした。それを見てよっぽどお疲れなんだなと三津は笑った。

 

 

「忙し過ぎる貴方の方が心配ですよ。」

 

 

多忙過ぎるこの人も体を壊しやしないか心配になった。今までは戦や因縁で理不尽に命を奪われる事ばかりを目の当たりにしてきたが,病でも人は死ぬ。

 

 

『忘れてた……。父上も病で死んでもたんやった……。』

 

 

三津は急に怖くなった。病は目に見えない。だから気付いた時には遅かったが有り得る。

 

 

『高杉さんは……怖いと思ってはるやろか……。自分の命がどんどん削られていくの……。』

 

 

戦と違ってじわじわと蝕まれていくのを,ただ待つだけの日々を過ごすのだ。

 

 

『おうのさんの所に行ったんは病を隠すだけやなくて,最期は愛する人の傍におりたいからやろか。』

 

 

だとしたら萩に居る奥さんはどうなるんだろうか。

 

 

『えっ,まさかあっちには報せてへん?奥さんは……知らんまんま?』

 

 

そう思った時,三津の目は完全に冴えてしまった。

 

 

「アカン,寝られん……。」

 

 

少し風に当たろうと静かに外に出た。真っ暗な屯所はしんと静まり返って不気味だ。

ちょっと水でも飲んで落ち着こうかと台所へ行こうと徘徊していると,

 

 

「嫁ちゃん?」

「ひっ!?」

 

 

暗闇から名前を呼ばれて変な声が出た。

 

 

「あっ,山縣さんか……。」

 

 

「おう,俺や。もしかして寝られんのか?」

 

 

「そう言う山縣さんも?」

 

 

二人は少し無言で向かい合って頷きあった。それから縁側に並んで腰を掛けた。

 

 

「やっぱ俺には受け止められん……。」

 

 

山縣は深い溜め息をついて俯いた。

 

 

「ですよねぇ……。もしかしたらなんですけど,萩のご家族に連絡って……。」

「しちょらんやろな。」

 

 

即答されてやっぱりかぁ……と三津も深い溜め息をついて俯いた。

 

 

「知らされたら奥さんどんな反応しはるんやろ……。」

 

 

「分からん……。武士の妻やけぇ最悪の場合は常に覚悟しちょるやろうけど……。」

 

 

戦死ではなく病だ。これから死を見届けなければならない。「明日の朝,小五郎さんと高杉さんの所へ行って来ます。」

 

 

「そうか。頼んだ。」

 

 

山縣は俯いたまま言った。三津は俺も一緒に……”と言わなかった事に少し驚いたが,山縣なりの気遣いを感じ取った。

 

 

「戻ったら様子を報告しますね。」

 

 

「おう,頼む。まぁ高杉の事やけぇ人の言う事は利かんと思うが,木戸さんの話にならちっとは耳を貸すかもな。」

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